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高松高等裁判所 昭和42年(ウ)80号 決定 1967年9月20日

債権者 板垣退太郎

債務者 川井亀

主文

本件仮処分命令申請を却下する。

申請費用は、債権者の負担とする。

理由

本件仮処分命令申請の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

しかし、民訴法第二三七条は、仮処分命令申請についても準用されるから、仮処分異議事件について、終局判決があつた後に当該仮処分命令申請が取り下げられれば、最早同一の仮処分命令申請は、これをなしえないものというべきであるが、本件記録、債権者、債務者間の当庁昭和四〇年(ネ)第一三八号、同第一九一号仮処分異議事件(原審事件番号高知地方裁判所昭和三六年(モ)第八八号)記録に徴すれば、債権者は、別紙図面の赤線で囲んだ範囲の山林は自己の所有であるところ、債務者において、右山林の立木を伐採し、搬出しようとしているとし、債務者を相手方として、昭和三六年三月六日高知地方裁判所に「右土地、同地上にある立木並びに伐倒木に対する債務者の占有を解き、債権者の委任する高知地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。債務者は、右土地に立ち入り、立木を伐採したり、伐倒木を造材したり、搬出したり、譲渡等の処分行為をしたり、また第三者をして前記各行為をなさしめてはならない。執行吏は、右命令の趣旨を公示するため適当の方法をとらなければならない。」との趣旨の仮処分命令申請をなし(同裁判所昭和三六年(ヨ)第三六号事件)、同裁判所は、同月七日同趣旨の仮処分命令を発し、その頃その執行がなされたが、債務者において、右仮処分命令に対し異議申立をなし(同裁判所昭和三六年(モ)第八八号事件)、同裁判所は、該異議事件につき審理を遂げ、昭和四〇年五月一〇日「原決定を次のように変更する。別紙図面の赤線で囲んだ範囲の土地中赤斜線部分以外の土地、同地上の立木並びに伐倒木に対する債務者の占有を解き、債権者の委任する高知地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。債務者は、右土地に立ち入り、その立木を伐採したり、伐倒木を造材したり、譲渡等の処分行為をしたり、または第三者をして以上の各行為をなさしめてはならない。執行吏は、右命令の趣旨を公示するため適当の方法をとらなければならない。債権者のその余の申請はこれを却下する。この判決は、原決定の取消部分に限り、かりに執行することができる。」との趣旨の終局判決を言い渡した。しかるところ、債権者は、これを不服として高松高等裁判所に控訴を提起したが、同裁判所における口頭弁論終結(昭和四二年六月二七日)後、判決言渡前である同年九月一九日右仮処分申請を取り下げ、それとともに本件仮処分命令申請をなすに至つたことが明らかであつて、右仮処分命令申請と本件仮処分命令申請とを対比するに、一件記録を検討してみても、右仮処分命令申請取下とともになされた本件仮処分命令申請が、右仮処分命令申請と別個のものであるとは到底解しえられない。

そうすると、本件仮処分命令申請は、前記第一審裁判所の終局判決後取り下げられた右仮処分命令申請と同一のものというべく、かかる仮処分命令申請は、前叙の如く禁止されているのであるから、本件仮処分命令申請は、不適法として却下を免れない。

よつて、申請費用の負担につき、民訴法第九五条、第八九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 橘盛行 越智伝 鈴木弘)

別紙

申請の趣旨

一、債務者の別紙目録記載の土地(たゞし、その区域は別紙図面の赤斜線を施してある部分)上に存在する立木ならびにそのうち緑色を施してある土地上に存する伐倒木に対する占有を解き、債権者の委任した高知地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

二、債務者は、右土地に立入り、立木を伐採搬出したり伐倒木を造材搬出したり、もしくはこれらを譲渡その他処分したり、または第三者をして前記各行為をなさしめてはならない。

三、執行官は、前二項の命令の趣旨を公示するため適当な方法をとらなければならない。

との裁判を求める。

申請の理由

一、別紙目録記載の土地(たゞし、その区域は、別紙図面の赤線で囲まれた部分で、以下本件土地という)は、債権者の所有に属するものである。

二、ところで、当事者間においては、かねてから本件土地の所有権の帰属ならびに本件土地と債務者所有の高知県長岡郡本山町大字助藤字東山一、三四三番一山林一町八反歩との境界に関し係争中であること、ならびに債権者の主張する境界は、別紙図面の(A)点と(4) 点とを結ぶ林道の中心線であることは、御庁において顕著な事実である(昭和三九年(ネ)第八七号不動産所有権確認等控訴事件)。

三、さて、債権者は、本件土地上の立木および伐倒木につき、先に昭和三六年三月、債務者に対する前記申請の趣旨と同旨の高知地方裁判所昭和三六年(ヨ)第三六号不動産仮処分決定に基づき、同庁執行吏に委任してこれを執行したのであるが、その頃、債務者から右仮処分決定に対し異議の申立があり、該異議事件は、同庁昭和三六年(モ)第八八号事件として係属した。そして、該事件は昭和四〇年五月一〇日、同庁において判決が言渡された。しかし、債権者は、右判決が不服であるので、御庁に適法な控訴を申立て、右控訴事件は、御庁昭和四〇年(ネ)第一三八号事件として係属し、もつて今日に及んでいるところ、債権者は、先に昭和四一年二月五日、御庁に対し、右控訴申立による強制執行停止決定を申立て、同日、昭和四一年(ウ)第一八号事件による強制執行停止決定を得た。以上の事実は御庁において顕著な事実に属する。そこで債権者は、その頃、高知地方裁判所執行吏に委任して右決定に基づく執行停止処分を了した。

四、ところが、右執行停止処分は、これに先立ち、債務者において前記高知地方裁判所昭和三六年(モ)第八八号仮処分異議事件の仮執行宣言ある判決正本に基づき、同判決が言渡された昭和四〇年五月一〇日の直後頃、本件土地のうち、同判決の判示に係る別紙図面の(リ)点と三五号角石柱とを結ぶ線から債権者主張の境界線である前記(A)点と(4) 点とを結ぶ線までの間の部分、すなわち同図面の赤斜線を施してある部分に対する仮処分執行の取消手続をしていたので、法律上無効であることがこのほど明白となるに至つた(御庁昭和四二年(ラ)第一四号事件)。

五、あまつさえ、債務者は、前記御庁昭和四二年(ラ)第一四号事件について昭和四二年八月三一日なされた決定に基づき前記中西執行官をして同月八日前記本件緑部分中の緑色を施してある土地に存する伐倒木に対しこれが取消の執行を了した。

六、以上の次第で、目下御庁に係属中の前記本案訴訟において債権者が勝訴判決を得ても、債務者が前記立木を伐採搬出し、および前記伐倒木を造材搬出したりするときは、これを執行することが著るしく困難となることは必至であるので、債権者は、申請の趣旨記載の裁判を求めるため、止むなくこの申請に及んだ次第である。

物件目録

高知県長岡郡本山町大字助藤字東山一、三四三番三 一、山林 二八七六〇・三三平方米(二町九反歩)

同所 同番四 一、山林  一九八三・四七平方米(二反歩)

同所 同番五 一、山林  七九三三・八八平方米(八反歩)

同所 同番六 一、山林 二九七五二・〇六平方米(三町歩)

同所 同番七 一、山林 二九七五二・〇六平方米(三町歩)

同所 同番八 一、山林   九九一・七三平方米(一反歩)

右土地の区域は、別紙図面の赤線で囲まれた部分であるが、そのうち、同図面の赤斜線を施してある部分の土地上の立木ならびにそのうち同図面の緑色を施してある部分の土地上に存する伐倒木一切

長岡郡本山町助藤字東山 図〈省略〉

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